プロットをどう書くか――というのは、実はひとつの方法に決めがたいものだ。
例示することはできる。
ただ、唯一の正答を示すことはできない。
プロットの書き方に正解はない。これが唯一の正解だ。
プロットの書き方は、多種多様である
小説の執筆というのは、孤独な営みである。
すべての人間がすこしずつ異なるように、すべての小説はすこしずつ異なっている。
その小説が成し遂げたかった理想像との食い違いはあったとしても、
すべての小説を同じ基準で評価することはできない。
それはすべての人間を順位付けしようというぐらい、乱暴な話だ。
すべての小説は異なっている。
異なった理想像に向けて、異なったアプローチで挑むのが、小説を書くという行いだ。
だから必然的に、プロットの書き方は多種多様になる。
いまざっと思いつくだけでも、これだけの手法が想像される。
- 箇条書きで書いていく
- カードに場面ごとに書いていく
- えんえんとあらすじを書いていく
- イメージビジュアルを繋いで書いていく
- タロットカードを並べて書いていく
- キャラクターの感情の流れをグラフにして書いていく
- 読者が抱く感情の流れをグラフにして書いていく
- 登場人物ごとにブロック分けして時系列を並行させて書いていく
- じっさいの歴史の流れを書き出してその余白を埋めながら書いていく
- 過去の名作のプロットを因数分解し、それに当てはめて書いていく
- どんでん返しから逆算して書いていく
- クライマックスのシーンから逆算して書いていく
- 登場人物の「変化」に焦点を当てて書いていく
どの書き方を選択するかは、きみに任されている。
自分にとって、その作品にとって最良の書き方を見いだせるよう頑張ろう。
プロットを文章で書くなら、「接続詞」を使おう
ただし、これだけでは不親切に過ぎるため、ひとつの手法を例示してみたい。
あらすじの文章をだーっと書くという、
もっともシンプルなスタイルのプロットを書く際に使える手法だ。
それは、「文章に接続詞を付ける」という方法である。
論文の文章をイメージすればいい。
受験勉強で論文の書き方を学ばされたときには、接続詞の使い方を学ばされただろう?
思い出しながら、以下の話を聞いてもらいたい。
接続詞とは、方向指示器である。
接続詞から始まる文を読むとき、ひとは接続詞によって論の導かれていく方向を知る。
「しかし」と書かれていれば、前文に対する反論を書きたいのだと分かる。
「例えば」と書かれていれば、これから具体例が挙げられるのだと分かる。
「ただし」と書かれていれば、注意すべき点について語られると分かる。
接続詞は、読み手にとって便利なものだ。
だが、書き手にとっても非常に有用な武器になりうるのである。
プロットを書きながら「この先の展開をどうしよう」と詰まったとき、
ひとつの接続詞を選んでみるのだ。
選び方は、直感でよい。
例 そして、主人公は民衆に向かって叫ぶ。 「いいか! 誰かに助けてもらおうなんて思うな! 俺たちは少数だ、全員を守ることなんてできない! だから、おまえたち自身が戦うんだ!」 すると、民衆は「やるぞ!」「そうだ、戦おう!」と武器を取り始める。
なんとなく、この後には「しかし」と来る気がする。
「しかし」と書き加えてみよう。
例 そして、主人公は民衆に向かって叫ぶ。 「いいか! 誰かに助けてもらおうなんて思うな! 俺たちは少数だ、全員を守ることなんてできない! だから、おまえたち自身が戦うんだ!」 すると、民衆は「やるぞ!」「そうだ、戦おう!」と武器を取り始める。 しかし、
きみは考える。
「しかし」と置かれたからには、おそらく、
主人公の檄を受けてようやく火がついた民衆たちに、水を差す出来事が起きるはずだ。
そしてそれは、敵からの反撃を兼ねていなければならない。
民衆が味方することによってようやく戦況が逆転できるかと思いきや、
またしても失速するような出来事だろう。
そうだ、と思いつく。
例 そして、主人公は民衆に向かって叫ぶ。 「いいか! 誰かに助けてもらおうなんて思うな! 俺たちは少数だ、全員を守ることなんてできない! だから、おまえたち自身が戦うんだ!」 すると、民衆は「やるぞ!」「そうだ、戦おう!」と武器を取り始める。 しかし、敵の将軍は民衆の声をかき消すように大声を張り上げる。 「全兵に告ぐ! さいしょに斬りかかってきた者を全力で殺せ!」 すると、民衆はまたしても恐怖に静まりかえってしまう。 なぜなら、戦う覚悟はできても、殺される覚悟はできないからだ。 「くそ……!」 主人公が歯ぎしりする。
直感的に選んだ接続詞から、こういった展開を引き出すことができる。
接続詞を選ぶとき、きみはこれまで多くの物語に触れてきた経験から、
「こっちにいけば面白くなるはずだ」という方向を、本能的に見極めているのだ。
そもそも、物語を書こうとした段階で、きみのなかには物語のストックはじゅうぶんに揃っている。
だが、それを意識的に引き出すには、長い訓練が必要となる。
ではどうするか?
無意識で引き出してしまえばいい。
直感的に接続詞を選ぶことで、きみは無意識にアクセスしているのだ。
道具をすべて並べておこう
接続詞を選ぶという方法が有効なのは、ご納得いただけただろうか。
ただ、道具を使うには、「目の前に並べておく」ことが肝要だ。
いちばんのオススメは、接続詞カードをつくってしまうことだ。
100円ショップに行き、名刺サイズのカードを買ってこよう。
それに、思いつく接続詞(下記「おすすめ接続詞一覧」を参照してもいい)を、
1枚1ワードで書いていく。
あとは、プロットの展開に詰まるたびに1枚を引っぱりだして、見つめるのだ。
物理的なカードとしてつくっておけば、存在感が強まる。
このカードの中に答えはあるんだと固く信じれば、じっさいに答えが引き出しやすくなる。
また、接続詞カードをつくっておくことで、たとえばランダムに一枚をピックアップしてみることで、発想の転換に用いることもできる。
これも楽しいやり方だ。
もしも100円ショップに行く暇がなければ、デスクトップに付箋アプリを起動し、
そこに「おすすめ接続詞一覧」を取り急ぎ並べておくだけでもよい。
ワードやテキストエディタで書きながら、
横に表示されている接続詞を見つめるだけでも効果はある。
まずはじぶんにこの手法が向くかどうか、試してみよう。
おすすめ接続詞一覧
- 「だから」
- 「このため」
- 「それゆえ」
- 「だからこそ」
- 「すると」
- 「そうしないと」
- 「このように」
- 「つまり」
- 「もしも」
- 「しかし」
- 「それでも」
- 「とはいえ」
- 「それなのに」
- 「ところが」
- 「また」
- 「さらに」
- 「同時に」
- 「最後に」
- 「最初に」
- 「次に」
- 「そして」
- 「それにしても」
- 「しかも」
- 「その上で」
- 「そればかりか」
- 「まして」
- 「とにかく」
- 「一方」
- 「逆に」
- 「あるいは」
- 「なぜなら」
- 「ただし」
- 「ちなみに」
- 「実は」
- 「もっとも」
- 「そもそも」
- 「例えば」
- 「具体的には」
- 「すなわち」
- 「要するに」
- 「とくに」
- 「いわば」
- 「たしかに」
- 「もちろん」
本文では接続詞をすべて取り払うこと
重要な注意点である。
プロットでは接続詞を有意義に使ってくれて構わないが、
本文ではなるべくすべての接続詞を取り払うようにしよう。
先述したように、接続詞とは方向指示器である。
方向指示器は、これからどちらに行くかを示すことで、驚きを奪ってしまう。
いわば、接続詞の存在が小さなネタバレとなってしまうのだ。
読者はつねに驚きたがっている、ということを忘れてはならない。
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