白紙をまえにしたとき、人は絶望する。
0からスタートするというのはあまりに酷だ。
取りかかれないのは、おおむね絶望しているからだと言っていい。
白紙から始めてはいけない。
0からスタートするのではなく、1からスタートしよう。
プロットは最後まで書いておこう
プロットは最後まで書いておこう。
次になにを書いたらいいのか、という迷いが生まれると、もう書けなくなる。
プロットは完璧である必要はない。
まだ決まっていないところも多いだろう。
そういうところは、「未定」とか「ここ後で考える」などと書いておけばいい。
とにかく、1を準備してやることだ。
0から1を生み出すのは、もはや不可能であると認識したほうがいい。
とまあ、ここまで書いたのは、「書きたい企画がすでにある」場合の話。
じっさいには、「なにか書きたいけど、なにを書いたらいいか分からない」という場合もままある。
それこそ、0からなにかを生み出そうと白紙とにらめっこしている状態だ。
こんな苦痛と戦っていたら、いつまで経っても創作は苦痛にしかならない。
下記のような手法を用いて、「1からスタートする」状態にしてみよう。
訓練1.絵画から書く
きみがまったくの手ぶらからものを書こうとしているのであれば、絵画を見るのがよい。
画集をめくり、気に入ったものをノベライズしよう。
ネット検索で絵画を探すのはおすすめしない。気が散りやすいからだ。
図書館でぱらぱらっとめくって、気になった画集を何冊か借りてくること。
最初は描写訓練のため、見えるものを文章化するだけでもいい。
絵画を一枚選び、その題をタイトルに掲げ、1,200字から2,000字程度の物語を書いてみよう。
描かれているものをたんねんに描写してやるだけでも、ビジュアルを言語化する訓練になる。
それを超えて「オチをつける」ことに挑もうとすれば、またこれはよい訓練になる。
絵画はおおむね「静止」を描いているものだから、時間展開をもたらす小説とは相性が悪い。
ひとつの状況を書き取るところまではできても、どうやって落としたらいいかは非常に難しい。
絵画をじっくりと眺めよう。妄想を広げよう。
どこに対立が存在するか、上に向かおうとする力を阻んでいるのはなにか考える。
人間はそういう意味ですごくドラマティックな存在だと考えていいと思います。
「言葉の箱 小説を書くということ」辻邦生
ドラマティックな存在というのは、上に上る力に対して、絶えずそれを邪魔するものがある。精神的に高くなろうとすると、もっともっと低く、動物的なもの、物欲的なものに引き下げようとする力が働く。
ドラマを見いだしたければ、登場人物の「上に向かおうとする力」と「阻む力」を見いだせばよい。
訓練2.ジャンル×しりとり
まず、じぶんが取りかかるジャンルを決めよう。
ジャンル名は、ざっくりとしていて構わない。
SF、ミステリ、ロボットもの、ラブコメ、BL、etc…
ある程度の余白を残していたほうが、発想を阻害しない。
あとはジャンルと掛け算するキーワードを、しりとりで次々に発想していき、
ひとつごとに一行のログライン(あらすじ)を書いていく。
こんな具合だ。
「刑事もの」×「リンゴ」 | アップルパイを焼いてくるアメリカンなおばあちゃん刑事 |
「刑事もの」×「ゴマ」 | ごま塩頭のオジサン刑事 |
「刑事もの」×「魔女」 | 魔女っ子犯罪対策課 |
「刑事もの」×「夜」 | 昼夜逆転した刑事、繁華街専門 |
「刑事もの」×「ルビー」 | 宝石専門の怪盗を追う刑事、実は刑事が共犯? |
「刑事もの」×「ビキニ」 | 南国の島の刑事、色白が恥ずかしいという価値観 |
「刑事もの」×「ニキータ」 | 少女殺し屋と少年刑事のボーイミーツガール |
「刑事もの」×「鯛焼き」 | 甘味オタクの刑事、実際の有名店と協賛? |
「刑事もの」×「Kindle」 | ガジェットマニア刑事、最新ガジェットを駆使し捜査 |
「刑事もの」×「ルイ十六世」 | フランス革命期を舞台にした刑事ドラマ |
「刑事もの」×「インカ帝国」 | インディー・ジョーンズ風の古代遺跡を舞台にした謎解き |
「刑事もの」×「九郎義経」 | 平家物語を下敷きにした刑事もの |
「刑事もの」×「寝袋」 | 野宿しながら犯人を追い詰める |
実例を見ていただければ分かるとおり、全部が全部面白いネタにはなりえない。
だがこれはあくまで発想のとっかかりである。
こうやって並べていくうちに、「これちょっと面白くなりそうでは?」というものが
ひとつふたつ紛れてくる。
そういうものを、企画として立ち上げればいい。
種がひとつ見つかれば、その時点でしりとりは完了だ。
コツとしては、「あくまで興味のあるジャンルを設定する」こと。
じぶんが読者として楽しんでいるジャンルや、このジャンルで書きたいと思っているものにしよう。
ちなみにぼくの場合、刑事ものにはあんまり興味もないし経験も浅いため、我ながら発想の飛躍に乏しい。目新しい企画もほとんどない。
この回は失敗である。
余談だが、一般的にジャンルが明確に定まっている作家ほど、書くネタに困らないと言われている。
ジャンルという網を張っていて、物事を常にその指標で評価し、その色眼鏡を掛けて観察する習慣がついているから、アイデアを見落とさないのだ。
ミステリ作家なら、「どうやって殺人が起きたら面白いか、謎になりえるか」、
SF作家なら、「どういう風に社会が変わると面白いか」という具合に、世間を眺めている。
そのため、ある程度執筆自体に慣れてきたら、
早い内に「じぶんのジャンルを定める」ことをおすすめする。
訓練3.三題噺
定番中の定番である。解説も特に不要だろう。
机上にある国語辞典をめくって、3つのキーワードをチョイスし書いてみる。
- 「男尊女卑」×「絵筆」×「フロンティア」
- 「カラス」×「ハサミ」×「親戚」
みたいな感じだ。
最初に目に入ったもので無理矢理作れるならそれでもいいが、
慣れないうちは、イメージが膨らむ言葉に出会うまでめくりつづけてもいい。
3ワードが決まったら、ここからプロットをひねり出す。
物語の展開が止まってしまったら、「もうひとめくり」して単語を足してもいい。
3ワードというのはあくまで目安でしかないし、慣れないうちは「主人公の設定を決めるのに3ワードを使い切ってしまった……」ということになりがちなのだ。
ちなみに三題噺はWEBサービスでも自動生成サービスがいっぱい用意されているが、
「よほどの用がない限りネットに繋がない」というのは創作に集中するコツである。
なるべく国語辞典をぺらぺらめくる原始的な手法に徹しよう。
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